[ヒミツの2人] |
[寄り添っていよう・・・] |
久しぶりに逢ったその人は、いつもの定位置のソファーに腰を下ろすなり 盛大な溜息を一つ付いて目を瞑る。 大きく投げ出すように広げられた両の足の間に、ダラリと両の手も放られている。 「疲れてる?」 俺はつい、見たまま、感じたままを口にした。 「んん〜」 返事とも付かない、呻き声が返ってきた。 「今、忙しそうだもんね」 主演映画の製作発表、撮影、プロモーション・・・・・・・・・・・。 公開後も好評故の忙しさが続いているらしい。 「身体、大丈夫?」 我身にも覚えのある日々に、分かってはいたが聞かずにはいられない。 「年寄りには堪えるぜ〜」 茶化した返事が返ってくるのも何となく想像していたが、案の定の応え。 けれどその声の常に無い頼り無さには少しだけ驚いてしまった。 だからだろうか? 性的なそれよりも、労わりの気持ちでソファーの後ろ側に立ち、 自分よりも一回りは薄く華奢な肩を柔らかく、何度も何度も撫でた。 一体何度、その肩を撫でた頃だったろうか。 撫でていた手に、その人の手が重ねられてきて動きを止められた。 「どうしたの?」 と尋ねる前に、すりりと摺り寄せられる。 最初は手の甲に、そして裏返された掌に。 その人の自分より短めだけれど真っ黒な髪の感触と柔らかな耳たぶと この所の忙しさで心持ち痩け気味だけれど相変わらず滑(すべ)らかな頬の感触。 気が済むまで付き合うつもりで黙ってその人のするがまま立っていた。 やがて焦れたのか、力を込めて手が引かれる。 隣に来てくれと。 ソファーを廻り込んで座れば、待ち兼ねた様に肩に圧し掛かる重み。 られたその人の身体の重さと、シャツ越しに伝わる体温の温かさに、 今夜は二人でひっそりと寄り添っていようと思った。 「今夜はこうしていよう・・・・・」 |
[WG] |
「お帰りなさい♪」 ドアを開ければ、玄関の上がり口には嫁さんが見慣れた笑顔で待っていてくれた。 そうして俺の「ただいま」の返事も聞かないうちに、こう続けた。 「待ってたのよ・・・・って、やだ・・・・・ どうしたの?ヒッドイ顔ぉ・・・・・」 仕方が無かった。 何故なら前日の午後も遅くに始まった収録は、トラブル続きで朝日が顔を覗かせた頃、 やっとの事で終了となったのだ。 それ以前から溜まったモノと共に、今や疲れはピークに達していて、 身体は重く、だるく、ドラマの衣装を脱いだ途端、 本来ならもう、歩く事さえ拒否したい位で、気分は勿論最悪だった。 ウチへ帰ってからどうするかなんて、考える事さえ億劫で。 運転なんて冗談じゃなかったから、昨日はマネージャーに迎えに来てもらっていて正解だった。 本当に助かったと、心底思いながら、マンションの前まで連れ帰ってくれたマネージャーに 車から降りながら礼を言い、また今日の午後遅くから 再び出掛ける事になっている仕事の為の迎えの時間の確認をして、 漸く別れの挨拶を交わし、ヨロヨロとエントランスへの階段を昇った。 その背に不安を感じたのだろう、マネージャーがもう一度声を掛けてきた。 「大丈夫でしょうね? いいですか? 午後の2時に迎えに来ますからね。 此処まで降りてきてて下さいよ」 俺はもう、振り返る気力も無く、背を向けたままピラピラと御座なりに手を振ってみせた。 「仕事先、CXTVですよ、いいですね」 「お〜〜〜〜〜・・・・・」 もう、それだけ返すのがやっとだった。 エントランスを抜け、エレベーターのボタンを押して箱が降りてくるのを、 壁に縋るみたいにして寄りかかって待つ。 一分でも、一秒でもいいから、早くウチに辿り着きたかった。 そして何もかもを後回しにして、取り敢えずはベットにダイブしたかった。 とは言っても、これまで同様、熟睡できない事は分かってはいたけれど・・・・・。 やっと来たエレベーターに、つんのめるみたいになりながら乗り込んだ。 朦朧として、マジで足元が覚束なくなってきた。 ヤバイ!ヤバイぞ!! あと数秒で自宅の有る階に着く。 エレベーターを出たら、右に出て、20歩も歩けば到着だ。 さぁ、停まった。 扉が開いた。 一歩出て、右向け右だ。 それから1、2、3・・・・・の3歩目で立ち止まる。 携帯が、鳴った気がしたんだ。 ワンコール。 愛娘が生まれて以来、その健やかな眠りを妨げる事のない様に、 急なベルにビックリして、泣き出す事のない様にと、 最近ではマナーモードにしていた筈の携帯が、鳴った気がしたんだ。 仕様がなく、ポケットを探って携帯を取り出す。 けれど着信どころか、メールさえ来てはいなくて、 思わず俺は、歩きながら気でも失ってたのかと首を傾げ、 掌の携帯を元のポケットに仕舞い直しすと、再び歩き出した。 漸く辿り着いた自宅のドアの前、ピンポンと呼び出しのチャイムを押した俺は、 もうすっかり携帯の事等忘れ果てていた。 考えてみれば、分かったかもしれない。 さっきの携帯の着信音が、たったのワンコールで切れた不思議。 何より、鳴ったのが、自分の設定している着信音とは違ってたって事。 けれどその時の草臥れ果てていた俺は、そんな事には気付く余裕もなく、 只管一途に、目の前のドアが開くのを待っていた。 |
[WG2] |
玄関で出迎えてくれたかみさんに、俺は手にしていた僅かな荷物を手渡した。 それから靴を脱ごうとして、疲れで翳んだ目がタイル張りの三和土に並ぶ、 見慣れない二組の靴を捉えた。 「あ・・・れ、これ・・・・・」 疲れは、思考力も奪っているらしい。 男物と、女物の二組の靴は、片方は明らかに自分の履いている物より大きかったし、 もう片方も、普段かみさんが愛用しているタイプの靴とは、まるで違っていた。 「あ、それ・・・・・」 かみさんが言い掛けた所に、廊下の突き当たりにあるダイニングの扉が開いて、 そこから覗いた顔に漸く状況を読み取れた。 「あらぁ、おかえりなさい」 かみさんのお袋さんがニコニコと笑いながら近付いてくる。 「どうも」 俺も笑って応える。 「よう、帰ってきたな」 開けっ放しだった扉から、今度は親父さんが出てきた。 「すいません、撮影が押しちゃって」 「いやいや、構わんよ。 忙しいのは良い事じゃないか。 それだけ皆さんに気に入られてるって事だろう?」 「や・・・そうならいいんですけど」 苦笑交じりに返事をしていたら、かみさんが会話に割って入ってきた。 「お父さん、ギバにぃ帰ってきたばっかりで靴も脱いでないんだから。 話なら、ダイニングでもできるでしょう」 「俺はいいけど・・・・・今日はわざわざ迎えに来てくださったんでしょう?」 「ああ、この子から君が忙しくしているって聞いていたからね。 可愛い孫のお迎えに、ジィジィとバァバァが、お節介にも出張って来ちゃったんだよ」 「もうね、この人ったら早く早くってさっきっから煩いの。 見て頂戴、コレ」 お袋さんが指差す先を見れば、玄関の上がり口、 かみさん達の陰になっていて気付かずにいたのだが、 其処には一山の荷物が用意されていた。 待望の愛娘が生まれて、まだそれほど経ってはいない。 初めての出産・育児に加えて俺のかみさんとしての毎日に、 良いトコのお嬢さんとして育ったわりに家事もそこそここなしていた彼女も、 流石に不安思う事も色々と有るらしく、産後の休養も兼ねて、 暫く実家の方に身を寄せる事になっていた。 本来ならば、俺がかみさんと赤ん坊を連れて彼女の実家まで、 よろしくお願いしますと、頭の一つも下げに、 送っていかなければならないところだったが、 この所の仕事の多忙さに、内心どうしようかと思っていた。 それに気付いたかみさんが気を利かせて、実家の両親に迎えに来てくれるようにと、 いつの間にやら連絡を入れていたらしい。 まぁ、いつの間にやらというのも、彼女なりの気遣いだ。 きっと、相談したならば、愛する奥さんと待望の愛娘の為だ、 俺は無理をしてでも二人を彼女のふるさとまで送って行ったに違いない。 毎日草臥れ果てて帰宅する主人の姿を見ていた彼女の、 妻としての、母としての優しさだと俺は感じた。 それから、俺自身の生活の方はといえば、一人暮らしも随分と長かったので、 そこそこ家事にも慣れていたし、今更不便に思う事も無いだろうと思っていた。 「もうね、お父さんだけじゃないの。 お母さんだってスゴイのよ、笑っちゃうわ。 他の要りそうな荷物もさっさとお父さんの車に二人掛りで乗せちゃったし、 第一、この間、私が電話して以来、二人してアレだコレだって実家の方に、 置場が無い位に勝手な買い物をして用意してくれてるらしいの」 かみさんが可笑しそうに言った。 「そうなのよ。 もうね、嬉しくって。 主人と二人して、暇さえあれば新生児コーナーとか覗きに行ってね、 その度に、一抱えも、二抱えも荷物を持って帰ってくるんだから」 「溜まりもするさ、なぁ?」 親子三人が、交代で俺に向かって話し掛けてくる。 想像して、俺も笑ってしまった。 「じゃぁさ、このまま行っちゃってもいいよ」 一頻り、皆で笑った後、俺は言った。 「また2時には迎えが来るからさ、 それまでに風呂に入るか寝るかしとかないとなんないし、 多分俺、このまま上がったら、即効気絶しそうなんだ。 だからさ、見送るなら、今しか無いと思うんだわ」 「そう?なら・・・そうしようかな」 「じゃぁ、アタシが台所とか、片しとくから、 貴女は赤ちゃんの用意したら?」 「他に荷物が有れば、父さんが運んでやろう」 「ああ、義母さん。 台所とか、リビングとか、そのままでいいですよ。 後で俺が、やっときますから」 「あら・・・いいの? じゃぁ、あの子が寝てるうちに行っちゃう?」 「そうね・・・そうしよう! ゴメンね、疲れてるのに、何にもしてあげられなくって」 「イイって、イイって」 ゴメンと言いながらも、身体はもう赤ん坊の居るリビングへと向いているかみさんの後ろ姿を、 苦笑交じりに玄関に立ったまま見送れば、彼女のオヤジさんが「すまないね」と、 コチラも苦笑交じりに笑って寄越してきた。 「仕様がないですよ。 先ずは[母親業]が最優先ですからね、今は」 「そうだな、確かにウチもそうだった」 男二人、ふぅと溜息をそれぞれに一つ吐いた。 結局、俺が帰ってくるのを今か今かと親子三人待っていたのだろう。 それからものの10分程度で、すやすやと寝顔も愛らしい愛娘とは玄関で別れさせられ、 「疲れてるだろうから、見送りはいいわ」とその場に置き去りにされるみたいに残され、 急に静かになった自宅マンションの一室で、 俺はぽつねんと一人きり、早朝の陽の光を浴びていた。 ぼんやりと辺りを見渡せば、飲み掛けの湯飲み茶碗やらカップが三人分、 テーブルの上に雑然と残されていた。 それらを両手で抱え、キッチンのシンクに置きに行けば、 コンロの上には何やら作ってくれているらしい鍋が有ったが、 今は食欲よりも睡眠欲の方が勝っていて、 何が入っているのか覗いて確かめる気力も無かった。 せめて寝る前にミネラルウォーターをと思い、 近寄った冷蔵庫の扉のホワイトボードには、冷蔵庫や冷凍庫に入っているという 作り置きのメニューがズラリと書き記してあるのが分かった。 レンジでチンするだけで食えるようにしてくれているのは有難かったが、 ここ最近の忙しさと疲れに、かみさんが帰ってくるまでにそれをどれ程消費できるか、 俺には全く想像する事は出来なかった。 赤ん坊用にと買ってあった小さなペットボトル入りのミネラルウォーターを、 冷蔵庫のボトル立てから一本抜いて、とにかく先ず俺は寝る事に決め、 ペタペタとスリッパも履かず寝室へと向かった。 近付くにつれ、何やら音が聞こえるのに気付く。 扉を開けば、急いで出掛けてしまったので気付かなかったのだろう、 寝室に据えられた大型テレビが消し忘れられていた。 大きな画面の上段の隅に、ご丁寧に大き目の字で現在の時刻が映っているのを、 見るともなしに確かめれば、[8:02]とあった。 無意識に「8時か・・・9・10っと、後でシャワーを浴びるとして、 飯さえ抜けば、5時間半は寝れるな」と俺は呟いた。 手の中のペットボトルの蓋をグイと捻る。 パキリとプラスチックの捩じ切れる音がした。 蓋をクルクルと廻し、外れたそれをボトルと同じ方の手に一緒に持つと、 ゴクゴクと咽喉を鳴らして中の冷えた水を飲みながら、 空いた方の手で背後の開けっ放しにしていた寝室のドアの取っ手を引いた。 レースのカーテン越しの寝室は、その程度では朝の光で過ぎる程に明るかった。 寝るのなら、もう一枚、厚い方のカーテンを引かなけりゃならないなと思い、 限界を訴える身体を、もう後はこれさえやれば横にならせてやるからと宥め賺しつつ、 窓際まで移動し掛けた。 その時・・・・・ ただならぬ調子の声に振り向けば、 画面には民放の朝のワイドショーの司会の男女が並んで映っていた。 片方の男性の司会者が、泡を飛ばすみたいにして、 真っ赤になって何やらしゃべっている。 傍らの女性アナウンサーは頷きつつも、眉間に深刻そうな縦皺を刻んでいるし、 心なしか蒼褪めている様な気がした。 どちらも、よく知る二人だったし、実際に映画の宣伝やドラマの番宣でも、 そのワイドショーには何度も出演させてもらっていて、 スタジオに行って、直に会って話をしたりした事だって度々だった。 普段は明るく、気の良い二人の、そんな表情や話しっぷりは稀に見るもので、 訝しく思った俺は、締めようとしていたカーテンの事は措いておいて、 テレビの内容を、その時、漸く注意して聞いてみたのだった。 「状況は、どうなっているんでしょうね?」 「現場の方、まだ何も言ってきてませんか?」 「場所が場所だからね、情報が入り辛いんでしょうね」 「そうですね、大丈夫でしょうかねぇ」 「今の状態では、我々にも何の情報も入っては来てませんのでね。 テレビの前の皆さんに、お知らせ仕様にも・・・」 「繰り返しになりますが・・・・・。 お聞きの通り、今は情報が錯綜しております。 現場が、大変に不便な場所ですので、 正確で、詳しい情報が全く入ってきておりません」 「ですから、一旦、通常の番組の内容をお送りし、 情報が入り次第、直ぐにまた事故に関する情報に切り替えたいと思います」 「その前に、たった今、テレビを点けた方の為に繰り返しておきましょうか。 番組冒頭に飛び込んで来ました事故のニュースでして、 現場が雪深く、不便な山の中という事で状況が全くの不明なのですが、 映画[ホワイトアウト]の追加撮影の為の撮影班が、 撮影中に雪崩に巻き込まれ、行方不明者が出ているという事です」 「その行方不明者の中に、主演で俳優の織田裕二さんも含まれているという 絶対にそうであって欲しくないという未確認の情報も入ってきていて、 スタジオ中が、騒然としておりますが、今は確かな事は分かりません。 また、情報が入りましたら真っ先にそちらに繋ぎます。 では、それまで今日の予定の内容を・・・・・・・」 「・・・・・・・・な・・・に?」 毛足の長い絨毯なのに 空のペットボトルがその上に落ちた 無機質な音はコーンと 何故だか恐ろしい程 独りぼっちの寝室に響いた。 |
[WG3] |
人間(ひと)というモノは可笑しなもので、驚きが過ぎると、 普段ならば容易に理解の出来る物事が、サッパリ理解できなくなってしまうらしい。 「何、言ってんだ?」 俺は、テレビのアナウンサーの言っている言葉が、全く理解出来ずにいた。 (誰が、どうしたって?) テレビから繰り返し、繰り返し、同じ言葉が放たれてくるのだけれど、 何度聞かされても、今の俺には何の事だか理解出来ないでいる。 それなのに、身体の方は眠気等は一瞬にして吹っ飛び、 その上に、血の気の方までもが足元の辺りにまで一気に下がった気がして、 ブルブルと瘧の様に震え始めた。 自分は、寒さに震えているのか?と思った俺だったが、 此処は南東の日当たりの良い部屋で、 室温だってエアコンで適温に設定されている筈だった。 寒い訳は無かった。 では何故? 思った所に、唐突に俺の思考を遮る音が何処からともなく聞こえてきた。 それは、然程大きな音ではなく、寧ろテレビの音の方が大きい位だったというのに、 何故だか、俺の耳に確実に捕らえられた。 窓際に立ち尽くしていた俺の視線が、音の源を探して左右に向けられる。 「!!」 そこだと、音の在り処を断定するのに要した時間は、どれ位だったろう? 俺自身には、途轍もなく長い時間が掛かった様に感じられた。 というのも、目当ての音の他に部屋の中にはテレビの音、キャスターの話す声が、 恐ろしいほどに間延びしながら渦巻いて聞こえていたから。 けれど、実の所、然程の時間は経っていなかった。 俺は、その音を聞いた途端、それがなんの音だか、 もう長い事聞いていなかったというのに、瞬時に気付いていたのだから。 忘れたと、思っていたのに。 忘れたつもりでも、忘れる事など出来てはいない。 その音の正体は、かみさんでさえ勝手に開かないと約束の出来ているクローゼットの、 俺専用の鍵付きの隠し引き出しの、そのまた奥底深くに、 ひっそりと仕舞ってあったモノの発する音だった。 俺はクローゼットに飛び付き、扉をスライドさせた。 そうして目当ての引き出しを、帰ってきたときのままポケットに入れっ放しにしてあった 車やら自宅やら、その他もろもろの鍵やらがぶら下がったキーホルダーを掴み出し、 その中から目立ての鍵を摘み上げると、迷いもせずに鍵穴へと差し込もうとした。 けれど余りの勢いに、2度、3度と目標を違えてしまって、肝心の鍵穴を、 上下左右にと滑ってしまう。 遂に、片手でやっていた作業を両手にして、慎重に、 息さえ殺して鍵穴に近付けてみれば、今度こそやっと、 鍵は鍵穴へと納まり、捻った指先に僅かな感触が伝わり、 鍵が開いたのが分かった。 鍵を鍵穴に差し込んだまま、俺は引き出しの取っ手に手を掛け、 力任せに引っ張り出した。 作り付けの落下防止装置のお陰で、俺の乱暴な所作にも引き出しは外れてしまう事もなく、 中の物が飛び散るという惨劇も防がれた。 ただ俺の手に、ガンと衝撃があって、 引っ張り出されるだけ引っ張り出された引き出しが止まる。 俺はその中に手を突っ込むと、其れが在るべき辺りを、 形振り構わぬ様子で一心に探り始めた。 そもそも隠し引き出しなんて物は大きな物ではなく、 その中を探すのに、然程の時間を要する筈もなく、 俺が震えながら探っていた指先に、目当ての物が触れた感触。 上の方に乗っかっていた小物のアレコレを取っ払い、 シッカリと掴んで取り出したモノ。 それは・・・・・ 織田から渡された、あの携帯だった。 |
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